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人間形成の道 韓非子(その2)

投稿日:2010年7月23日 更新日:

韓非子(その2)
22.7.22
文責 髙橋

 時代が変われば当然制度も変えるべきだと主張し、儒家の仁義の政治を古臭くて役に立たないと批判した韓非子は、次に君主に取り巻き法術を妨げている抵抗勢力を批判する。
君主は国を豊かにして人々を幸せにしたいと願い、賢者を招き百官の意見を入れ、賞罰を行い、善政を敷いているのに、思うように政治が行われていない。なぜかとの問いに、韓非子は、君主の周りには5種類の害虫がいて、これが君主の政治を妨害していると批判する。
では、続きを読んでいこう。

<本文>
3 君主の周りの5種類の害虫

(1) 五蠹(ごと)
 君主の周りには、国に害をなす虫がウジョウジョ居る。これらが君主を騙し、私利を貪り、民を苦しめている。
 5種類の害虫を五蠹(ごと)という。蠹(と)とは木の内部を食い荒らす虫のことで、五蠹とは朝廷を内部から食い荒らし、私腹を肥やす輩である。
 すなわち、学者、遊説者、侠客、側近、商人・職人がこれである。これを駆除して、節操ある人物の登用をしなければならない。

(2) 学者の害が一番ひどい
学者は儒家の代弁者である。古の聖王を称えて「仁義」を借用し、賞罰を乱し、服装や言葉を飾って現在の法に異議を唱え、君主の心を乱す。
魯(ろ)の国に戦の度に逃げ帰った若者が居たが、病弱な親のためと知った孔子がその若者を孝子であると褒美を与えた。すると、戦で逃げ帰ることを恥と思わない風潮となり、魯の国は急速に弱体化してしまった。また、親の悪事を訴えた者を、褒めるどころか親不孝として罰してしまった。これらは賞罰を正しく行なっていないことだ。正を不正とし、不正を正とするこうした儒家の政治手法は、君主の正しい国の政治を乱す基となる。
また、学者は庶民に理解できないような高尚な言葉や議論を好んで行う。世間では難しい言葉が知性として尊ばれているが、言葉に騙されてはいけない。法を理解しなければならないものは庶民である。易しい言葉で書かれ、わかりやすい議論こそ有用なのだ。
(日本の現代の公文書・法律の類も、市民の理解するところではない。刑法を読んだことのある日本人はどのくらいいるのかと考えさせられる。)
 優れた君主の国では華麗な文は必要でない。法があればそれを生活の基準とし、儒家の説く仁義の教えなど基準としてはならない。刑を司る役人が生活の先生である(名主の国は書簡の文なく、法をもって教となし、先王の語なく、吏をもって師となす)と言い切った。これが行き過ぎて、天下に悪名高い焚書坑儒(ふんしょこうじゅ)の理論的根拠となった。焚書坑儒とは秦の始皇帝が行った評判の悪い政治の一つで、実用書以外の書物を全て焼却し、儒家を穴埋めにして殺した歴史的事件である。

(3)遊説者の害は君主を誤らせる 
 この時代は、強い国が生き残る戦国時代である。時代の要請に応えて、富国強兵策を売り込んで歩く遊説者が、国を動かしていた。これに対して、実のあることを大切に考える韓非子は、遊説者を口先だけで君主を惑わす悪と批判する。遊説者は、いい加減な言葉と外国の力を借りて、私利を図り国の利益を害するものである。合従(がっしょう)を説くものは、小国同士の同盟が整う前に大国に滅ぼされても私利をむさぼり、連衡(れんこう)を説く遊説者は小国が大国に飲み込まれていっても自分だけは高官につく。口先だけで功もなく私利を図る輩である。遊説者が「外交こそ大きく天下に王たるの道で、さらに、内政を安定させる道である」と言うのは、間違いである。内政こそが、富国強兵の正しい道である。
 皮肉にも韓非子は秦にとっては遊説者の立場になる。遊説者の害を説くことは、韓非子自身に向けられた批判である。危険この上ない。

(4)侠客、側近、商人・職人の害も大きい
 侠客は、徒党を組んで国禁を犯す。官に抵抗しては英雄ともてはやされる。
 側近は、私財を貯え、賄賂で有力者に取り入り、戦功を握りつぶしている。
 商人・職人は、ずる賢い商いで、農民の利益を貪っている。

(5)害虫に厚遇を与えては、法は守られない
 国が乱れるのは、法を破る者がいてもこれを厚遇しているからだ。正と不正が逆になっていては、法は守られない。儒者・侠客はもとより法を破る者に、厚遇を与えてはならない。

4 害虫の駆除は法術の人
 これら害虫は高位高官や町の有力者であり、互いに助け合い、かばい合っているために本当の姿が見えず、君主からも信頼されている状況であるので、駆除することが極めて困難である。これを駆除できるのは方術の人だけである。だからこそ、害虫は自分たちに危険な方術の人の抹殺を謀ってくる。

(1)特権階級の大罪、君主の失策
 地位や権利や富を自由にできる様な特権階級の人に対しては、人々は自分の利益のために媚びを売り悪口を言わないのでなかなか本性が見抜けない。是を正すことができるのは術を得、法に通じた人だけという。
 「智術の士は明察(曇りのない眼で真実を見抜く)、聴用せらるれば、まさに重人(重役)の陰情(隠されている悪事)を燭らさんとす。能法の士は勁直(つよく真っ直ぐなこと) 、聴用せらるれば、まさに重人の姦行(悪い行い)を矯めんとす。故に智術能法の士用いらるれば、貴重の臣は必ず縄の外にあり。(悪い重臣たちを排斥できる)」
 (今でも許認可権の在るところ、資金を握っているところは腐敗の巣である。法の下の平等を保ち、善意の人の利を守るためには、智術能法の士を高く用いなければならない。)
 重臣は悪をなす者とぐるになって、君主を欺き、利益をあさっている。徒党を組んで主君を騙し、法を守らず世を乱している。ついには国に危機を招き領土は削られ、君主に屈辱と苦しみをもたらす。これは大罪である。臣下が大罪を犯しているのに君主が放任しているとしたら、これこそ大きな失策である。上で君主が大失策をおかし、下で臣下が大罪を行えば、国の存続を求めても、不可能である。

(2) 法術の士の孤独な戦い
特権階級の人は高位・高官・富貴の人である。一方、智術能法の士は孤独である。彼らから抹殺される前に、孤をもって、君子を覚醒させることができるのであろうか。
 法術の士は重臣に対して、次の五つの勝ち目のない条件がある。

・人々は重臣に取り入る為に悪の手先となっている、しかも敵の君主、百官、君主の側近、学者までもが、重臣の手先となり、重臣の悪事をかばい、おべっかを言う。

・こうして守られている重臣は君主の近くに居て信頼されている。

・法術の士は君主に仕えて日が浅く信頼を得ていない。

・法術の士が説く内容は、君主にとっては耳の痛い悪口を言われているようなものである。

・法術の士の地位が低く、国を相手に戦うのは舌一枚だけである。

これだけ不利な条件の下では、法術の士が、姦臣を排除することは極めて困難である。
 法術の士は重臣とは敵対関係にある。その身は危険に満ちている。口実があれば、法により処刑され、口実が無ければ、刺客に殺される(これ、方術に明らかにして主上に逆らう者は吏誅に戮せられずば、必ず私剣に死す)と、韓非子が喝破している。
そう言いながら、秦で大臣の謀略にかかり、命を落とすことになったのは、皮肉である。或いは、韓非子の説の正しさの証明なのか。

このように、孤独な法術の士が、命を掛けて君主に進言することの難しさについては(その3)につづく。職場で上司に意見を具申するときの参考となろう。

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