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有効打突について考える

投稿日:2010年7月13日 更新日:

22.7.13
文責 髙橋

○有効打突とは剣道試合審判規則に「有効打突は、充実した気勢、適正な姿勢をもって、竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し、残心あるものとする」とある。これは有効打突の要件といわれている。この他に間合いや機会など要素といわれるものがある。
何を今さら「有効打突を考える」必要があるのか、有効打突の要件や要素は明確に示されているではないか、とも考えるが、では、有効打突とは何であろうか。
有効な打突とは、剣道の原点に帰ると「刀で切る」ことではないだろうか。
有効打突の言葉を分解すると、有効な打突、効果のある打突、すなわち竹刀を刀に変えれば、切ったり突いたりするのに十分な打突となる。
刀で切る時に、刃筋を真っ直ぐにして振り下ろし、物打ちで切るとよく切れることは体験でわかる。「打突部で刃筋正しく」のことである。

○ところで、物打ちで切るということはどのようなことを言うのであろうか。
物打ちで物を切った時に、手に衝撃が少なく刀の重さで切れたという感覚がある。手に衝撃が少ないとは、刀を振り下ろした時の運動エネルギーの重心部分で切ったということである。運動エネルギーの重心の正確な位置は放物線の計算になるが、大雑把には刀の各部の運動エネルギーを直線で考えて、台形の計算でもわかる。
 刀を振り下ろすとは、肩を中心に刀を振ることで、刀の各部は同心円を描いている。刀の各部の振り下ろされる速度は肩から剣先に向かって長さに比例する。刀の各部の運動エネルギーは速度の二乗で計算されるので、刀を振り下ろした時の運度エネルギーの重心を求めることができる。

 今、かりに腕の長さを60センチとして、刃渡り60センチの刀の場合、右こぶしと剣先の速度の差は2倍であるので、運動エネルギーは4倍となる。その運動エネルギーの重心の位置は、拳の位置からの長さを「1」とすると、拳から刃先までの長さは「√2=1.414・・・」の関係になる。

 すなわち、運度エネルギーの重心は、刃渡りの長さの剣先から3分の1より少し剣先寄りとなる。実際の刀は刃先より鍔元にかけて重くなっていることが多いので、3分の1くらいが重心(スイートスポット)となろう。竹刀で言うと中結いあたりの位置となる。刃渡りの長い剣になると、先端部分の運動エネルギーは放物線を描いて増えていくので、剣の3分の1よりさらに剣先寄りとなるであろう。正しくは刀の形状によっても異なってくる。

 この位置で切ると、切り下ろした刀の運動エネルギーが、最大限切った対象にのしかかり、手元への衝撃が少なくなる。刀の先のほうで切ると刃先が撥ねっかえされる感覚になる。手元のほうで切ると、手にかかる衝撃が大きくなる。

 刀の物打ちの位置は、運動エネルギーの重心を求めることで物理的に証明することができて、疑似刀の竹刀では、中結いの付近であることが分かったが、現状の試合での有効打突の判定ではどうであろうか。

試合では、元打ちについては、なかなか有効打突とは判定していないが、竹刀の先端付近で打った場合には、ほとんどが有効打突と判定しているのではないだろうか。

○次に、打突部位について考えてみよう。
ルールとして面・小手・胴・突きが決められているのだから、それで良いだろうとは思うのだが、打たれたときに相手の前面を制していると有効打突にならないと決められている。それではこの前面は有効な部位ではないのか。そうであるならば、胴に対する突きも打突部位にする考え方もあろう。過去のルールでは、上段に対しては胴突きも有効打突と認められていたようだが。

その他にも、首から肩にかけての袈裟切り、足切りも主要な技だと思うがどうであろうか。現状は、身体の安全確保のために決められたものと考えるが、長刀では下肢への打ちは有効な部位である。子供の時に長刀と対して痛い思いをしたことを記憶している。

○「刃筋正しく」について、そのことは疑問はなさそうであるが、試合での判定では本当に「刃筋正しく」で評価しているのであろうか。
直線的に振り下ろした刀は、刃筋が正しければ見事に切ることができる。一方、弧を描いて切り下ろした刀では、えぐるような切り口になったり、刀が曲がったり折れたりしてしまう。

「刃筋正しく」とは、刃の向きだけではなく直線的な切り下ろす動作を言うのではないだろうか。そうであるならば、払い技や返し技で直線的に打つことはかなり困難である。特に胴打ちはほとんど弧を描いて切っている。真横に払う胴は無いといわれているが、居合いでは一文字に横に切る胴の技があるように、本当は正しい技ではないかと考えてしまう。

○以上述べてきたが、「打突部で打突部位を刃筋正しく打突」については物理的にも良くわかる。審判法講習会でこの3つは有効打突の絶対条件であると教えられている。さらに、最も重要なことを1つ選ぶとしたら「刃筋正しく」で、これこそが剣道の本質で、これを失っては剣道たり得ないとも教えられている。その通りと思っている。

○次に有効打突と「充実した気勢、適正な姿勢」、「残心」との関係はいかに考えたらよいのか。このことは刀で切ることの物理的な原理とは直接は関係しないように思われるが。

 ここで3者の関係を考える場合、打突を行う前に「充実した気勢、適正な姿勢」をとって「竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し」、打突後「残心」を示すというように、時間の経緯で捉えるのは誤りと考える。「竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し」と「充実した気勢、適正な姿勢」、「残心」とは同時で一体で不可分なものと考えるべきであろう。

○「適正な姿勢」は理解しやすい。刀でわらを切るときは腰を落として体を安定させて切る。体幹が安定して始めて刃筋のぶれない振りができる。試合でよく見かける、体が伸びきって手打ちとなっている打ちは有効打突としないほうがよいであろう。

○「充実した気勢」は経験できないことを推測と想像力で理解する必要があろう。これは、人を切るときの心の問題であろう。気狂いしなければ人は切れないといわれている。武士の時代であるから、人を切ることの罪の意識の問題ではない。切るためには、切られる間合いに入らなければならないという恐怖心があり、これを克服するためには気力をふるう必要がある。初心は気狂いとなり、修業を積んでからは、気を外に発して勇を起こし、更にはハイテンションからだんだん気を内に秘めた平常心へと向上していくのが「心法」の修行である。我々は刃の下の恐怖心の経験は不可能であるが、少なくとも竹刀は刀という意識を持って修業したいものである。

○「残心」は「充実した気勢」と一対で、伝えていきたい剣道の文化であろう。心を残さないで切りこんで、同時に残った心は理屈ではない事実として経験を積んでいきたいと思う。剣道形の理解では、仕太刀は打った瞬間が残心であるという。1本目では打ち太刀の面を抜いて面を打った瞬間が残心であり、後の動作は残心の継続を形にしたものである。他の形でも同じである。2本目・4本目も打った瞬間が残心で、ただ残心の継続した形がないだけのことである。「無にすることで有となる」体験は日本の誇る文化である。

○有効打突について考えてきたが、相変わらず読み返して恥ずかしい思いがする。剣道談話室はそのためにあるのだから、ここに掲載する。
「競技の中にも教育が入ることが剣道の特色である。審判は単に判定することが仕事ではない。競技者に正しい剣道を行わせることが重要である」と、審判法講習会で教えられている。有効打突もこの観点からの検討が必要である。また、要素についての検討も不十分である。多くの人の意見を聞いて引き続き考えていきたいと思う。


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名前:トオル先生

こんにちは!
プロフィールに写真を載せると言われたのですが、マンガにして貰いました。この方がピントはずれな事も平気で言えますので。
剣道を習っていて、フト是で良いのかなと思ったり、こうしたらどうだろうかと考えることがあるが、今更人に言えないで、そのままにしていて、そのうちにマアいいかとほったらかしにしている事って無いですか。
こうした時に、肩の力を抜いてお茶でもすすりながら、「是ってどう思う」と話せる部屋があれば良いなと思い、この部屋を作ってもらいました。
私が考えた事や、人に教えて頂いたことを少しずつ載せていきたいと思っています。批評は私に理解できるようにお願いします。