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兵法家伝書を読む(Ⅰ)

投稿日:2009年11月27日 更新日:

柳生但馬守宗矩
21.11.30
文責 髙橋  

1 兵法家伝書とは
 宮本武蔵の五輪書と双璧を成すといわれている江戸時代初期の兵法書。柳生新陰流の基本的伝書の一つで、寛永9年(1632年)柳生但馬守宗矩が62歳の時に完成され、「進履橋(しんりきょう)」(目録)、「殺人刀(せつにんとう)」、「活人剣(かつにんけん)」(「無刀の巻」を含む)の三部より成る。
進履橋(しんりきょう)は、流粗上泉伊勢守から伝わった新陰流の目録で、「殺人刀(せつにんとう)」、「活人剣(かつにんけん)」は、上泉伊勢守が立てた習以外に、石舟斎宗厳、宗矩父子が工夫創案した習(ならい)の外の別伝として、新陰流の技法及び心法上の理論的体系を詳述したものである。
技術面については、構え・目付・神妙剣(しんみょうけん)・水月などについて詳細な記述があり、現代剣道においても大いに役立つが、なによりも技術の発現に伴う心の持ちよう、特に「病気」(いわゆる驚・懼(く)・惑・疑)の克服の仕方、心・気・身体(力)の統合の在り方などについての記述などは奥深く、大いに修練の参考になる。
柳生新陰流は今現在にも脈々と受け継がれている剣で、奧義はその稽古の中に有るのであって、門外漢が理解できるところでないことを承知しつつ、以下、内容について考えていく。
なお、詳細については、岩波文庫「兵法家伝書」(渡辺一郎校注)が刊行されているので手に取って頂きたい。

2 進履橋(しんりきょう)について
(1)概要
石舟斎宗厳(せきしゅうさいむねよし)が35歳の時、流粗上泉伊勢守の伝を受けて以来、40年間に及ぶ一代の道業の根本となった新陰流の勢法(せいほう)=形の大概について述べたもの。目録の内容を極めた者に、本書1巻を書写して授け相伝の証とした。
巻名の由来は、中国の歴史書史記の故事に基づく。秦に恨みのある張良が、若い時に老人の落とした履(くつ)を取って履かせた奇縁により太公望の兵法を授与され、のちに漢の高祖の天下平定に寄与した話で、自らを張良に比する宗矩の自負心が伺える。

(2)内容

ア 三学 初学の門
兵法修行の大前提である身のこなしを自由にするため、最初に学ぶ三要素として、身構(みがまえ)・手足(しゅそく)・太刀(たち)をいう。
三学を習うに五つの基本がある。位五大事、身懸五箇之事、五ヶ之身位事など呼称は異なっているが、内容は身位(みぐらい)、身懸(みがかり)に関する五つの大事をいう。自分の身位のひずみを知って直すためのもの。
  一、身を一重になすべき事
  一、敵の拳(こぶし)を我肩にくらぶべき事
  一、我拳を楯(たて)につくべき事
  一、左の肘(ひじ)を延ばすべき事
  一、さきの膝(ひざ)に身をもたせ、あとの膝をのばすべき事
三学の初手は、構えについていう。構えは敵にきられぬ用心で、城を構えることと同じである。基本の構えの1つで、車輪という構えは脇構えのことである。左肩を切らせるようにしながら、回って勝つので車という。
一刀両段(いっとうりょうだん)以下五つの構えを記述し、口伝としているが、五箇の太刀の構えを一括して、円(えん)の太刀 丸(まる)太刀ともいう。
<参考:この五つは構えをしてたもつを専とする、待(たい)の心持ちの構えなり。柳生十兵衛三厳「月之抄」>

イ 九箇(くか)
流粗上泉伊勢守が、新当流(神道流)など諸流の奥義を究め、そのうちからとくに択びだして、新陰流の太刀に改編採用した九つの習をいう。師弟立ち会いの下に教えるもので、記述しがたいとしている。
<参考:この九つは構えをいて居る者に、先を仕掛け、打ち損じて二の目(め)を勝つ稽古。残心の習い。「月之抄」>

ウ 天狗抄太刀数八(てんぐしょうたちかずはち)及びそのほか太刀数六
石舟斎宗厳が今春七郎(能役者で兵法家)に宛てた兵法絵目録「新陰流兵法目録事」には八天狗の名で技法が図解されている。花車(かしゃ)、明身(あけみ)、善待(ぜんたい)、手引(てびき)、乱剣(らんけん)、序(じょ)、破(は)、急(きゅう)の八つである。
<参考:この太刀は構えを習として、これより切掛、序のうちにて表裏をもととして用いる太刀なり。「月之抄」>、
<参考:このの中の序・破・急に代えて二具足・打物・二人懸の三つを秘事にあげ、破の太刀なりとしている「新秘抄」>
 外太刀数六は新陰流の極意。石舟斎の慶長年代の兵法目録には天截(てんせつ)と乱截(らんせつ)は一つになっており、また活人剣は活人刀、それに極意の前に向(高)上があり、ほかに八箇必勝が附加されている。天截(てんせつ)、乱截(らんせつ)、極意(ごくい)、無二剣(むにけん)、活人剣(かつにんけん)、神妙剣(しんみょうけん)の六つである。
新陰流においては、この中より、千手万手をつかい出すことを強調している。基本の習に練達すれば、そこに無数の応用変化の太刀が自得出来るのであって、三学九箇などと太刀の数を言うことを否定する。

エ 策(はかりごと)を帷幄(いやく)の中に運(めぐ)らして、勝つことを千里の外(ほか)に決す
 この言葉、兵法においては、わが心を油断無くし、敵の動き、はたらきを見て、様々に表裏をしかけ、敵の機を見ることを、策を帷幄の中に運らすと心得、敵の機をよく見て、太刀にて勝を、勝つことを千里の外に決すと心得るべし。合戦も立ちあいも同じである。

オ 序破急(じょはきゅう)27のきり相の事
師弟立ちあいで教えるもので、書き残すものではない。
<参考:かかりにも序破急がある。かかる前は序。かかるうちは破。敵に合い打ちあう時は急。この仕掛け心におもうべし。うつに打たれ、うたれて勝つと思う心、残心を専として、これにて太刀表裏仕掛けに、これを習いよく取り出す心持ち肝要なり。柳生三厳「武蔵野」>

(3)所見
以上が、稽古に稽古を積んだ上で伝えられる目録であり、師弟立ちあいで教える事が基本のため、容易に立ち入ることは出来ないが、それでも新陰流で重要とされる考え方を垣間見ることが出来る。
勝つことよりも負けないことを重視する。相手に先を打たせて待で勝つ。先を取ったら攻めきって勝つ。勝つためには相手の手の内を知ることが重要。知るためには色々と仕掛けて探る。そして、立ちあいにおいては、習った技に囚われず、相手に応じて変幻自在、千手万手を繰り出して勝つ。
こうした考え方は、「殺人刀」、「活人剣」へと発展していく。

(つづく)

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