優れた人物(君子)とつまらない人間(小人)について
(論語その他)
21.7.5 文責 髙橋
初めに
剣道では、その理念として「人間形成の道である」と喝破し、剣道修練の心構えとして「自己の修養に努めて世の中に寄与する」ことだと述べている。
自己修養の項目として「気力」「礼節」「信義」「誠」の言葉が並べられているが、いまいち自己修練の目指すところがハッキリしない。そこで、ひとつの目安として、古くて新しい書物「論語」から、優れた人物像を拾ってみることにした。
1 君子は信義を重んじ道理を重視する。
・「君子は義に喩(さと)り、小人は利に喩る。」
君子は物事にぶつかった時に道理に適っているかどうかを考える。小人は損得を考える。
・「君子は義をもって質となし、礼をもってこれを行う。」
君子は胸中に義をいだきて、行うに礼をもってする。
・君子は勇気を尊ぶかと問われて、「君子は義をもって上となす。君子、勇ありて義なきは乱をなす。小人、勇ありて義なきは盗をなす。」
君子は勇気より義を大切にする。君子で勇気だけの者は反乱をする。小人で勇気だけの者は盗人となる。
・「君子は言をもって人を挙げず。人をもって言を廃せず。」
言論だけで人物を推挙しない。妥当な意見に対してはどんな身分の人の話でも耳をかたむける。
・「君子は道を謀りて食を謀らず。」
君子にとって道義の研究が第一であって、生活条件は二義的である。
2 君子は穏やかに人との交わりが、安易な妥協や贔屓はしない。小人はすぐ党派を組む。
・「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず。」
君子は心からの交流をしているが安易な妥協はしない。小人はすぐ妥協するが心からの交わりをしない。
・「君子は周(しゅう)して比(ひ)せず、小人は比して周せず。」
上と意味は近い。周は集まること。比はひいきをすること。
・「君子は矜して争わず、群して党せず。」
君子は自信にみちているが、むやみに争そわない。協調するが派閥は作らない。」
・「君子の交わりは淡きこと水のごとし。小人の交わりは甘きこと醴(あまざけ)のごとし。」
あまざけにはしつっこさがある。
・「君子は人の美を成して、人の悪を成さず。」
君子は人の良い点を認めて協力するが、悪には加担しない。
・「おのれにしかざる者を友とするなかれ。」
自分に相応しくない者とつきあってはならない。
3 君子は人に対して思いやり、人の不幸を喜ぶのは小人
・「君子は人の厄(やく)を見れば則ちこれを矜(あわ)れむ、小人は人の厄を見れば則ちこれを幸(さいわ)いとす。(公羊伝)」
人の不幸を喜ぶのが小人。外国では「人の不幸は蜂蜜の味」と言う。人間の嫌らしいところ。
4 君子は身の処し方、責任の取り方、間違った時の態度が違う。
・「君子はこれを己に求む、小人はこれを人に求む。」
君子は責任を自分に求めるが、小人は人のせいにする。
・「君子の過(あやまち)は日月の食」日食や月食のように隠すところがない。
「過(あやま)つときは、人皆これを見る。あらたむるや人みなこれを仰ぐ。」
隠さないから、間違った時、みんなが見ている。そして、これを改めると、その態度に感動して仰ぎ見る。
・「小人の過(あやまち)は必ず文(かざ)る。」
小人が間違えると、必ずごまかしたり、弁解したりする。
・「君子は豹変する。小人は面を革(あらた)む。」
君子は美しく美事に変わるが、小人は表面だけを変える。豹変するは本来褒め言葉。
・「過ちてはすなわち改むるに憚(はばか)ることなかれ。」
・「君子は上達する。小人は下達する。」
身の処し方が違うから、君子はだんだん立派になっていくが、小人は悪くなる。
5 君子の風貌。恥じない生活をしているから態度が違う。
・「君子は坦(たいら)かにして蕩蕩(とうとう)たり。小人は長(とこし)えに戚戚(せきせき)たり。」
君子は落ち着いていてゆったりとしている。小人はろくな事をしていないから、いつもくよくよして落ち着きがない。
・「君子は泰にして驕らず。小人は驕りて泰ならず。」泰は泰然としていること。驕りは人を見下すこと。
・「君子、重からざれば威あらず。」
人は重厚でなければ威厳が表れない。
・「君子に三変あり。これを望めば厳然たり。これにつけば温なり。その言を聞けばはげし」
君子は三度姿をかえる。遠くから来ていると近づきがたい威厳がある。親しく接してみると温かさが伝わってくる。言葉をかみしめると厳しさが分かってくる。
・「君子は言に訥(とつ)にして、行い敏ならんことを欲す。」
君子は弁舌さわやかよりも、行動において勇敢でありたい。
6 君子には道理を修めた自信がある
・未開の地で暮らすのですかと問われて「君子これに居らば、なんの陋(ろう)かこれあらん。」君子の住むところがいつまでも田舎であるはずがない。
・「君子は、憂えずおそれず。」
・旅の途中で困苦したとき、君子でも窮することがあるかと問われ「君子もとより窮す。小人窮すればここに濫(らん)す。」君子でも窮することはある。そのときに取り乱すのは小人ばかりだ。
7 君子の悩みや恥
・「君子は能なきを病(うれ)う。人の己を知らざるを病えず。」
実力のないのを気にかけるべきで、人に認められないことなど気にしない。
・「君子はその言のその行いに過ぐるを恥ず。」口ばかりで行いが伴わないのを恥じる。
・「君子は道を憂えて貧しきを憂えず。」
おわりに
君子について書かれているところを拾い読みしたが、論語には仁者(まごころ溢れる優しい人)についての言葉や、学ぶ喜びや、自分には出来ないといった弟子に対する厳しい言葉など、味わい深い短い文章が並んでいる。ときに目を通すようにしている。