21.6.18
文責 髙橋
1 前言
日本剣道形では1拍子で打ちなさいと言われている。稽古でも1拍子で打てと指導される。木刀による剣道基本技稽古法では「打突は、充実した気勢で手の内を絞り刃筋正しく「物打」を用い、後足の引付けを伴って1拍子で行わせる。」と書かれている。
私にとって、この「1拍子の打ち」は分かっているようで分からない難問である。まして、子供達に対してどのように教えたらよいのか。以下、分からないながらも考察したことを記す。
2 「拍子」について
打突で「拍子」関するものが少なくとも3つある。
1つは相手との拍子。拍子を合わせるとか拍子を外して打つというのがそれである。
立会で相手の出鼻を捉えて打つわざを1拍子という人もいる。これも相手との関係の拍子である。
1つは足捌きである。歩み足で「右、左、右(左の引きつけ)」と行えば3拍子である。継ぎ足で「左、右(左の引きつけ)」と行えば2拍子である。送り足で「右(左の引きつけ)」と行えば1拍子である。
あと1つは剣捌きで「起こり、振り上げ、振り降ろし」では3拍子。起こりのない「振り上げ、振り降ろし」は2拍子。上段からの「振り降ろし」は1拍子。
では中段からの1拍子の剣捌きはどうするのか。これが問題である。
3 達人達の「拍子」
五輪書で宮本武蔵は「一振りで2歩あゆむ」と言っている。左、右と歩みながら、刀を振り上げ、振り降ろして相手を倒した。これは「2拍子」である。他の箇所では「1拍子」について書いているが、これは「相手の戦う準備が出来ていない時に、一気に出て相手を倒す」ということで、これは相手との拍子のことである。
小説の中のことだが、武蔵と戦った吉岡一門の「一の剣」は上段から無心で切り下ろす「一拍子の打ち」である。
一刀流の「一の太刀」は切り落としであえう。これはどう考えたらよいのか。それは次の髙野先生の話で考えることが出来る。
昭和の剣聖、高野佐三郎(たかのささぶろう)先生は、「一拍子の打ち」を次のように言っている。
「こちらが守りながら攻めていくと、相手はその自信に圧倒されて、何らかの反応を示す。その相手の反応が『自分から自由に打ち出した』ときには、大変危険なので、こちらから打っていかないで、相手の「後の先」に応じ、返し胴や面返し面を打つ。もし、相手の心に迷いがでたら、「一拍子」で打ちぬける。
このためには、いつでも止まれるように入っていくことが重要。また、自分から入っていくところに相手の油断が生じるので、待っていて自分が打ちやすくなる機会より、打つ機会は多くなる。
一拍子の打ちは、
①遠くで見切って遠くで振りかぶり打ち下ろしいながら打つ方法
②切っ先を相手に寄せておいて、小さく打ち込む方法
の2つがある。
どちらの方法でも、打った後、相手に浴びせかかるようにぶつかれば、相手がやる気をなくしてしまって、抜けて行っても相手から振り向きざまに打たれることはない。」
ここでの①は「見切って、振り上げて、相手が打ってくるのを切り落とす」一刀流の「一の太刀」のようでのあり、また、上段からの振り降ろしの様にも感じられる。馬場欽司先生も著書で、相手が出てくることを見切った時にその場で振り上げて、一歩踏み込みながら振り下ろすところに相手の頭が来るというような打ち方もあると述べている。
では②はどのような打ちなのか。これが今回のテーマである。
4 切っ先を相手に寄せておいて、小さく打ち込む方法の「1拍子の打ち」
(1)「1拍子」の体捌き
2拍子、3拍子にならないで1拍子となる足捌きは「送り足」をすることである。この足捌きも細かく区分すると三段階に分かれる。
「起こり」と「体の押し出し」と「着地」である。
右足を浮かし、左足で体を前に押し出し始める動作、すなわち静から動への動き始めが「起こり」である。右足を前に滑らしながら、左足で左腰を中心に前に押し出す動作、すなわち、「起こり」で動き始めた体を加速させて前方に移動させる動作が「体の押し出し」である。右足が着地して、少し遅れて左足が引きつけられて着地するのが「着地」である。「着地」してただちに停止することはない。左足の引きつけは、右足を踏み出す意識より、左腰を押し出す感覚の方が上手に出来る。
「起こり」「体の押し出し」「着地」を擬音で表現すると、「ゥ」「スー」「トン」となろう。「ゥ」「スー」「トン」が滑らかに出来ると「一拍子」の足捌きとなる。
(2)「1拍子」の剣捌き
問題は、中段からの剣捌きで、「振り上げ、振り降ろし」ではどうしても「1拍子」にならない。ここで工夫が必要となる。「1拍子」にならなくとも「限りなく1拍子に近い」打ちが出来るはずである。「1拍子」の体捌きの間に、「限りなく1拍子に近い」剣捌きを行えば「1拍子の打ち」と言っても良いのではないか。
では、「限りなく1拍子に近い」打ちはどうしたらよいのか。
リズムで言うと、「はい、はい」は2拍子。「は~い」と「はい」は共に1拍子。「は~い」は間延びをしているが、振り上げ振り降ろしの動作に切れ目が無くて、1拍子の足捌きの間に打つことが出来れば、1拍子の打ちになると考える。この打ち方は、力のない子供や女性、それと手の内の利かない人に必要となろう。
「ゥ」「スー」「トン」の時間内に、ゆっくりと大きく「はーい」と打つためには、振り上げている途中で振り降ろしを開始する感覚が大切である。このためには振り上げる時に力を入れすぎないようにすることが必要である。力を入れて振り上げるとおそらくは2拍子の振りになるであろう。また、振り上げるときの手の高さは顔の前までが限度となろう。
「はい」の打ち方は、高野先生の言っている「小さく打ち込む」の打ち方となる。一つの方法として、小林先生が自分の打ち方を解説した打ち方がある。踏み込みながら、肩を使って竹刀を引き上げ、面の高さに来た時に手の内を利かして面を打つ。振り上げと振り降ろしが一つになっている打ち方である。ここまではできなくとも、手の内の利いた打ちが出来る人には、これに近い打ちが可能となろう。
修練・修練・修練が必要となる。
(3)足捌きと剣捌きの統合
ポイントは1つ。足捌きの「スー」の出来るだけ後半に振り上げ動作を開始して、「トン」の瞬間に打突する。「はーい」と打つ時も「ゥ」では振り上げないで「スー」に入ってから振り上げるようにすることである。
大人でも難しい打ちを、子供達に教えるためには、初めは飛び込まないすり足で、「スー」「トン」の時に面を打たせる動作を身につけさせ、その動作で剣道形や剣道基本技稽古法を行わせたらどうであろうか。
5 結言
以上考察したことを記したが、剣道形や基本技稽古法では「はーい」の打ち方を工夫し、立会の稽古では「はい」が打てるように工夫することが必要である。
教えを受け、稽古を積んで、さらに考察し、考えと動作が一致できるようにしていきたいと思う。とりあえず、この文章を掲載して、他の人の意見を聞いてから改めて修正することにする。