文責 高橋
21.4.19の伝達講習会において、「木刀による剣道基本技稽古法」の、解説及び実技指導が行われた。
神奈川県での普及が遅れているとのことで、今後、3級から1級までの昇級審査で実技として取り入れるとの話が在った。(当分は合否の対象にはしないとのこと。)
講習会で指導を受けた内容も合わせ記載した資料を作成したので、大池剣友会の指導の参考として利用されたい。
なお、郡先生がビデオテープを持っています。
(資料)
木刀による剣道基本技稽古法
1.制定の趣旨
剣道の基本技術を習得させるため、「竹刀は日本刀」であるとの観念を基とし、木刀を使用して「刀法の原理・理合」「作法の規範」を理解させるとともに、適正な対人的技能を中心に技を精選し指導するものとした。
2.構成
この稽古法での技およびその構成は、次のとおりである。
「基本1」一本打ちの技 「正面」「小手」「胴(右胴)」「突き」
「基本2」二・三段の技(連続技)「小手→面」
「基本3」払い技 「払い面(表)」
「基本4」引き技(鍔ぜり合い) 「引き胴(右胴)」
「基本5」抜き技 「面抜き胴(右胴)」
「基本6」すり上げ技 「小手すり上げ面(裏)」
「基本7」出ばな技 「出ばな小手」
「基本8」返し技 「面返し胴(右胴)」
「基本9」打ち落とし技 「胴(右胴)打ち落とし面」
3.基本指針
(1)所作事は、「日本剣道形」に準拠するものとする。
(2)習技者に対し、木刀を使用し剣道を正しく体得させる。
(3)使用する木刀は基本的には日本剣道形で用いるものとする
が、幼少年にあっては発育段階に応じて適切な木刀を使用する。
(4)基本動作については、「幼少年剣道指導要領」に則って指導する。
(5)習技は基本的には集団指導によるもので、「元立ち」「掛り手」の呼称は相互に平等の立場で行うという観点から用いた。
(6)集団指導を効果的に進めるために、指導者による随時適切な指揮の下に行うこととする。
ア 前記基本技の選別は、指導者が習技者の錬度に合わせ行う。
イ 適宜、指揮者の号令を導入するほか、錬度を高めるため「掛り手」だけの要領を繰り返し行う等の具体的内容や進め方について創意工夫を凝らす。
4.指導上の留意事項
(1)構え
ア 構え方はすべて「中段の構え」とする。
「中段の構え」は右足をやや前に出し、左こぶしは臍前約ひと握り、左手親指の付け根の関節を臍の高さで正中線に置く。剣先は「一足一刀の間合」においてその延長が相手の両眼の中央または左目の方向とする。
イ 構えの解き方は、剣先を自然に相手の膝頭から3~6センチメートル下で下段の構えの程度に右斜めに下げ、この時の剣先は相手の体からややはずれ、刃先は左斜め下に向くようにする。
(2)目付け
目付けは、相手の顔を中心に全体を見ることとし、ここではお互いに相手の目を見る。
(3)間合い
ア 立会いの間合はおよそ9歩の距離とし、3歩前進後における蹲踞しながらの木刀の抜き合せと、技の終了した時点の間合は「横手あたりを交差させる間合」とする。
イ 打突の間合は「一足一刀の間合」とし、この間合は個人の体格、筋力、技倆の程度などにより若干の差があることを指導する。
(指導のコツ:「一足一刀の間合」とは1歩踏み出せば相手を打突できる距離で、1歩退がれば相手の攻撃をかわすことのできる距離。相手にもよるが、各人の「一足一刀の間合」を理解させる一つの方法として、物打ちで面を正しく打った姿勢を取らせ、その状態から大きく一歩後に引いて中段に構えさせる。これがその人の「一足一刀の間合」となる。)
(4)打突
ア 打突は、充実した気勢で手の内を絞り刃筋正しく「物打」を用い、後足の引付けを伴って「一拍子」で行わせる。
イ 打突は、常に打突部位の寸前で止める空間打突となるが、刀で「切る・突く」という意味を理解させる。
ウ 「掛り手」の打突動作は、「元立ち」が合気になって与える機会を逃がすことのないよう、的確に捉えて「掛け声」とともに気合をこめて行わせる。
(5)足捌き
足さばきは、送り足を原則とし「すり足」で行わせる。
(6)掛け声(発声)
打突時に、「面(メン)、小手(コテ)、胴(ドウ)、突き(ツキ)」と打突部位の呼称を明確に発声させる。
(7)残心
打突後は、油断することなく相手に正対し、間合を考慮しながら「中段の構え」となって残心を示させる。(指導のコツ:基本6だけは、面を打った状態のまま残心を示すことになる。日本剣道形でも2本目と4本目が形としての残心はない。これに対する考え方だが、正しくは打った瞬間の気構え・身構えが残心であり、形としての残心は、残心の継続されているものと捉えたらどうか。)
5 項目ごとの実施事項、指導要領及び留意事項
(1)立会前後の作法
ア 実施事項
(ア)木刀を右手の提げ、下座で約3歩の距離で向かい合って正座し、木刀を右脇に刃部を内側に、鍔を膝頭に揃えて置き、互いに座礼をする。
(イ)立ち上がり「提刀」のまま立会の間合に進み、先ず上座に立礼、その後相互に立礼の後、木刀を左手に持ち変えると同時に左手の親指を鍔にかけ「帯刀」となり、相互に右足から3歩踏み出して蹲踞しながら木刀を抜き合せ、立ち上がって中段の構えとなる。
(ウ)最後の演武が終了したら蹲踞して木刀を納め、立ち上がって帯刀のまま小さく5歩退がり、右手に持ち変えて「提刀」となり相互に立礼後、上座に立礼して下座に戻り座礼をして退場する。
イ 指導要領および留意事項
(ア)座礼の位置は、下座の中央が望ましい。(集団指導の場合は、座礼を省略する。)
(イ)正座は「左座右起」とし、座礼の両手は同時に着く。
(ウ)上座の立礼は約30度、相互の立礼は約15度で相手に注目して行う。
(エ)木刀の持ち変えは、概ね体の中央で行う。
(オ)帯刀時の柄頭の位置は、正中線となるようにする。
(2)基本1 一本打ちの技
ア 実施事項
双方右足から「歩み足」にて3歩前進し、「一足一刀の間合」に接した後、「面(メン)」の掛け声とともに「元立ち」の正面を打つ。
以下、同様に「小手(コテ)」・「右胴(ドウ)」・「突き(ツキ)」の技を施す。
上記の動作が終わってから構えを解き、双方左足から「歩み足」にて小さく5歩後退して立会の間合に復し、中段の構えとなる。
イ 指導要領および留意事項
(ア)「正面」
・右足を一歩踏み出しながら、両腕の間から相手の全体が見える程度に大きく振りかぶり、刃筋正しく行う。
なお、振りかぶりは、剣先が両こぶしの高さから下がらないようにする。
・「元立ち」の打つ機会の与え方は、剣先をやや右に開く。
・打突後「掛り手」は1歩後退して残心を示し、更に、1歩後退して「一足一刀の間合」に復する。
(イ)「 小手」
・小手打ちの振りかぶりは、両腕の間から相手の右小手が見える程度とする。
・「元立ち」の打つ機会の与え方は、剣先をやや上に上げる。
・打突後「掛り手」は1歩後退して残心を示し、更に1歩後退して「一足一刀の間合」に復する。
(ウ)「胴(右胴)」
・大きく振りかぶりながら、頭上で手を返し刃筋正しく行う。その際、打突は前進しながら相手に正対して行う。
・「元立ち」の打つ機会の与え方は、手元を上げる。
・打突後「掛り手」は1歩後退して残心を示し、更に1歩後退して「一足一刀の間合」に復する。
(エ)「突き」
・突き技については、初歩の段階でその基本を理解させようとするもので、手技にならないよう腰を中心に体を進め、相手の咽喉部を突き、突いた後すぐ手元を戻す。
・「元立ち」の突く機会の与え方は、剣先をやや右下に下げ1歩後退しながら突かせる。
・「掛り手」は突いた後1歩後退して残心を示し、更に1歩後退して元に復する。
その際、「元立ち」は「掛り手」に合わせて1歩前進し元に復する。(指導のコツ:元に復するとあるが、この時の間合いは、初めの「一足一刀の間合」ではなく、「横手あたりを交差させる間合」となる。以下同じ)
(3)基本2 二・三段の技(連続技)「小手→面」
ア 実施事項
双方右足から「歩み足」にて3歩前進し、「一足一刀の間合」に接した後、動作を開始する。
上記の動作が終わってから構えを解き、双方左足から「歩み足」にて小さく5歩後退して立会の間合 に復し、中段の構えとなる。
イ 指導要領および留意事項
・右足を1歩踏み出しながら振りかぶって「元立ち」の右小手を打ち、相手の退くところを更に右足を1歩踏み出して正面を打つ。(指導のコツ:間延びした二段打ちにならない様に注意する。)
・「元立ち」の受け方は、最初に剣先をやや上に上げて右小手を打たせ、続いて左足から1歩後退しながら剣先をやや右に開いて、正面を打たせる。
・「掛り手」は打った後1歩後退して残心を示し、更に1歩後退し「一足一刀の間合」になる。その後、同時に「掛り手」は1歩後退、「元立ち」は1歩前進して元に復する。
(4)基本3 払い技「払い面(表)」
ア 実施事項
双方右足から「歩み足」にて3歩前進し、「一足一刀の間合」に接した後、動作を開始する。
上記の動作が終わってから構えを解き、双方左足から「歩み足」にて小さく5歩後退して立会の
間合に復し、中段の構えとなる。
イ 指導要領および留意事項
・「掛り手」は右足を1歩踏み出しながら、木刀の表鎬を使って払い上げて相手の構えを崩し、そのまま正面を打つ。(指導のコツ:一歩の踏み出しで払いと面打ちを行う。)
・「掛り手」は打った後1歩後退して残心を示し、更に1歩後退して元に復する。
(5)基本4 引き技「引き胴(右胴)」
ア 実施事項
双方右足から「歩み足」にて3歩前進し、「一足一刀の間合」に接した後、動作を開始する。
上記の動作が終わってから構えを解き、双方左足から「歩み足」にて小さく5歩後退して立会の
間合に復し、中段の構えとなる。
イ 指導要領および留意事項
・「掛り手」は右足を1歩踏み出しながら正面を打ち、「元立ち」は表鎬で応じ、双方やや前進し鍔ぜり合いとなり、「掛り手」は相手の鍔元を押し下げる。
これに対し「元立ち」が押し返し手元が上がった機会を捉え、「掛り手」は左足を退きながら振りかぶり右足を引き付けると同時に右胴を打つ。
・「掛り手」は打った後1歩後退して残心を示し、その後双方1歩後退して元に復する。
(指導のコツ:鍔ぜり合いは、左手は丹田付近、右手は臍の高さにして懐を広く構え、剣は右斜め前に傾けて、相手の鍔を上から押さえるようにする。陥りやすい悪い姿勢として、こぶしのせり合いや、胸の高さでの押し合い、あるいは、刀と体が近すぎる状態になりやすい。)
(6)基本5 抜き技「面抜き胴(右胴)」
ア 実施事項
双方右足から「歩み足」にて3歩前進し、「一足一刀の間合」に接した後、動作を開始する。
上記の動作が終わってから構えを解き、双方左足から「歩み足」にて小さく5歩後退して立会の
間合に復し、中段の構えとなる。
イ 指導要領および留意事項
・「元立ち」は右足を1歩踏み出しながら正面を打つ。「掛り手」は右足をやや右斜め前に出しながら振りかぶり、相手の右胴を刃筋正しく打つ。その際、(双方とも)目付けは外さない。
・「元立ち」は面を打った位置で動作を止め、「掛り手」は右胴を打ったところで止める。
・打った後双方とも正対しながら1歩後退し、「掛り手」は残心を示す。その後双方とも左に移動して元に復する。
(7)基本6 すり上げ技「小手すり上げ面(裏)」
ア 実施事項
双方右足から「歩み足」にて3歩前進し、「一足一刀の間合」に接した後、動作を開始する。
上記の動作が終わってから構えを解き、双方左足から「歩み足」にて小さく5歩後退して立会の
間合に復し、中段の構えとなる。
イ 指導要領および留意事項
・「元立ち」は右足を1歩踏み出しながら右小手を打つ。「掛り手」は左足から1歩後退しながら自分の木刀の裏鎬で相手の裏鎬をすり上げ、すかさず右足から1歩踏み出し正面を打つ。
(指導のコツ:一歩後退して一歩踏み出す時に、右足を床にしっかりと踏みつけないで行うと一拍子の打ちになる。)
・すり上げられた小手打ちの剣先は、自然に体側から外れる。
・打った後「掛り手」は残心を示し、双方1歩後退して元に復する。
(8)基本7 出ばな技「出ばな小手」
ア 実施事項
双方右足から「歩み足」にて3歩前進し、「一足一刀の間合」に接した後、動作を開始する。
上記の動作が終わってから構えを解き、双方左足から「歩み足」にて小さく5歩後退して立会の
間合に復し、中段の構えとなる。
イ 指導要領および留意事項
・「元立ち」がやや右足を前に出しながら打ち込もうとして、剣先を上げようとする「起こり頭」を促え、「掛り手」は右足を1歩踏み出しながら小技で素早く、鋭く小手を打つ。
・「掛り手」は打った後1歩後退して残心を示し、その後1歩後退し、同時に「元立ち」は右足を退き元に復する。
(9)基本8 返し技「面返し胴(右胴)」
ア 実施事項
双方右足から「歩み足」にて3歩前進し、「一足一刀の間合」に接した後、動作を開始する。
上記の動作が終わってから構えを解き、双方左足から「歩み足」にて小さく5歩後退して立会の
間合に復し、中段の構えとなる。
イ 指導要領および留意事項
・「元立ち」は右足を1歩踏み出しながら正面を打つ。「掛り手」は右足をやや右斜め前に出しながら自分の木刀の表鎬で相手の木刀を迎えるように応じ、すかさず手を返して右斜め前に出ながら、相手の右胴を刃筋正しく打つ。その際、目付けは外さない。
・「元立ち」は正面を打った位置で動作を止め、「掛り手」は右胴を打ったところで止める。
・打った後双方とも正対しながら1歩後退し、「掛り手」は残心を示す。その後双方とも左に移動して元に復する。
(10)基本9 打ち落とし技「胴(右胴)打ち落とし面」
ア 実施事項
双方右足から「歩み足」にて3歩前進し、「一足一刀の間合」に接した後、動作を開始する。
最後の演武が終わってから蹲踞の姿勢となり納刀、双方立ち上がって帯刀のまま左足から「歩み足」 にて小さく5歩後退して立会の間合に復する。
イ 指導要領および留意事項
・「元立ち」は右足を1歩踏み出しながら右胴を打つ。「掛り手」は左足からやや左斜め後ろにさばくと同時に、相手の木刀を自分の木刀の刃部の「物打」付近で斜め右下方に打ち落とし、すかさず間合を勘案しながら右足を踏み出して正面を打つ。
・打った後双方とも正対しながら1歩後退し、「掛り手」残心を示す。その後双方とも右に移動して元に復する。