五輪書・兵法三十五箇条(宮本武蔵)
H21.3・1 文責 高橋 通
宮本武蔵の著に五輪書・兵法三十五箇条・独行道がある。剣については兵法三十五箇条が先に書かれ、剣についての主要な事柄はここにほとんど述べられている。五輪書は兵法三十五箇条を基礎として武蔵の哲学を含め伝書としてまとめたものである。独行道は武蔵が死ぬ間際に自省自戒の書として弟子達に残したもので直接剣とは関係ない。
五輪書・兵法三十五箇条は二刀の書であり、勝つためには詐も厭わない感もする内容では有るが、現代の竹刀剣道にも役立つことが多く書かれているので、好きなところ(理解できるところ)を抜き書きして解説を付けてみた。
名言・格言2としては山岡鉄舟の著述を、名言・格言3としては沢庵禅師の不動智神妙録を予定し、現在推敲中である。
1 構え・姿勢・剣の持ち方
・ 屈む姿勢は悪い。相手に優越感と余裕を与える。丈比べの様に姿勢は伸ばす。
顔は正面を向き、肩を張らず、膝の力を抜いて、腹は少し出すようにする。
・ 体の力は入れない。手や肘が固まっていては素早く剣を出すことができなくなる。力を入れるところは、うなじ、剣を握る小指と薬指(親指、人差し指は浮かす様に、中指は軽く握る)、膝から下つま先まで。腕の上腕は弱く、下筋は強く持つ
・ 中段の構えの剣先は相手の顔に着ける。(剣の延長線が顔の所になる。)
<江戸時代初期の剣法では、腰をかがめて斬り合うのが主流と思うが、武蔵が腰をかがめない姿勢を取ったのは先進的な剣である。無用な力みは動きを鈍くさせる。力みをなくすためには、稽古の度に体の各所の力のいれ加減を確認することが必要である。>
2 心構え
・ 意のこころは軽く、心のこころは重く。心は水にして事に応じる。<意は作為・行動力、心は融通無碍の対応力か。>
・ 平常の心。打ち込むときは無心。
・ 我は将、敵は卒の気位。
・ 構えたり、受けたりするときに、切る心を忘れては負ける。切る心を忘れて居着くは死処
・ 残心と放心。常は意のこころを放ち、心のこころを残す。敵を確かに打つ時は、心のこころを放ち、意のこころを残す。
<切るは切られる間に入る生死一如の剣において、古来こころの修練は多くの名人が説いてきたところであるが、何をどのように修練したら良いのかの手がかりが掴めない。最近はメンタルトレーニングとしてスポーツ関係者が研究し、選手達の能力発揮に活用しているが、何か違うような気がする。確かにメンタルトレーニングで力みは減らすことができているが、ここで言う自在の心は刃下の胆の修練である。>
3 勝負所
・ 一拍子の剣は相手の備えが整わない所を一挙に勝負に出る、剣を踏む勢いで。二の腰の拍子の剣は打つと見せかけて調子を外し、相手の気が緩んだ時に打って出る。
・ 3つの先。1つはわが方から敵に先にかかる先で「懸の先」、また1つは敵がわが方にかかってきたときの先で「待の先」、もう1つはわが方からも敵からもかかったときの先で「躰々(対々)の先」と言う。それぞれの先で勝つことが重要。
「懸の先」では、先にかかる心を持って、靜に構え、時を見てにわかにかかり、鋭く強く勝ちきるまで攻め続けること。
「待の先」では、相手が先にかかってきたときに、間合いを切って、相手が居着いたときをすかさず攻めるか、または、相手がかかってきたときに相手よりも強く早く打ち込んで勝ちを制すること。
・ 気合いは勢いなので、三つの声即ち初中後の声がある。初めの声は相手を威圧するようにかける。戦いの間は調子を低くして底の方から押し出すようにかける。勝ちて後は大きく強く出す。
<基本は相手の虚(準備のできてない状態)を打つ。虚がなければ実を虚に変えて打つ。やむを得ず実を打つ時は相手より強い意志で打つ。>
4 相手の力を見切る
・ 技量に上・中・下の位がある。
下は早く強くと動きまわる。中は所作や技が上手に見え品もある。上は早からず遅からず、特別の工夫もなく自然で靜。
・ 相手の技量を測るこころを持って、長短を知るべし。敵の身になって考えると理解できる。
・ 調子の間を知り、兆しを押さえると楽に勝てる。
<清水次郎長が喧嘩に負けたことがないのは、相手の力量を判断して行動したからだ。剣を合わせた時にチャリンと相手の剣をまず叩き、がちがちに握っていたら一気に勝負に出て、相手の握りが緩い時は、相手が喧嘩慣れしていると判断して逃げたそうだ。>
5 目付
・ 大体顔に付け、目を動かさないで、緩やかに見る。敵が近くても遠くを見るように。
遠くを見るようにすると、目を動かさなくても総体を見ることができる。
・ 観見の目付ということがある。観(内面・兆し)の目強く、見(外見の動き)の目弱く。視界は広く。剣を見ないで剣を見る。
・ 相手に知らせる目付というものも有り。
<遠くを見ることを遠山の目付ともいう。相手の手元や竹刀の動きを見るとの意見もある。意と目付が一箇所に囚われると全体が見えなくなるのも事実である。>
6 体捌き
・ 常に歩む様に。飛び足、浮き足、踏み揺する足、ぬく足、おくれ先立つ足は悪い。
・ 一太刀に2歩。
<今の竹刀・道場剣道と異なるが参考になる>
7 剣の振り
・ 力を入れて振り下ろすと刃筋がぶれる。上げるときは早く、降ろすときは靜に振り下ろす。
・ 手先だけでなく肘から切る。
・ 切り込むときは足が先で剣は後。
<刃筋を通す振りは今の剣道でも重要>
8 受け(二刀の要領だが参考になる)
・ 突き受けに3つある。顔を付く様にしてから受け流す。
・ 張り受けは相手の拍子と合わないときに相手の打ち込みに応じて張り、張るより早く敵を切る意識。
<受けるための受けでなく、切るための受け>
9勝負手
・ 影を動かし、相手の出たところを打てば勝ちは易しい。
・ 対々の先の時には無念無想の打ちが肝要。相手が受けよう受けようとしている時にはゆっくり大きな流水の打ちが有効。
・ 太刀で切ろうとすると腰が引けてしまうもの。体で切る感覚が重要。この時剣は体に遅れて出る感覚。身を捨てる、太刀に替わる身など同じ様な意。
・ 相手の心を攻めて十分に働かさないようにする。移すように引き込む。侮らせ、油断させ、腹を立てさせる。意表をついたり恐怖心を起こさせる。
<影を動かすとは「先の先」に近いイメージか。気で相手の剣を押さえて無心で打ち込むと相手が打ってくる、その出鼻を打つイメージ。>
10 場の位を知る
・ 有利な場に立つ
・ 光は後に
<有利になる工夫はある>