H21.2.26 文責 高橋 通
日本剣道形の解説書には形の要領・指導上の留意点・経緯などが記されているが、各形の修練の目的・狙いが明らかにされていない。おそらくは、形が制定された当時は、各形の狙いは自明の理であって、わざわざ書く必要が無かったからであろう。しかしながら刀による斬り合いから竹刀による競技に変わった世代にとっては、形の目的・狙いが示されていないと、形の稽古が単なる物まね・踊りのたぐいとなってしまい、剣道に生かされない無駄稽古になってしいがちになる。ここに、太刀7本の形の特性と繋がりを考えながら、それぞれの目的・狙いを推測するとともに、形に対する疑問点を整理して、形修練の実を高めたいと思った。インターネット上で検索してみると色々な意見が出ている。そういう意見を参考にしながらまとめてみたものである。
未熟者の独断をあえて文章にしたのは、これが議論のきっかけとなると考えたからである。お茶でもすすりながら見て下さい。
太刀の形
○ 1本目の目的は、「間合い」と「抜き」にある
・ 1本目に中段ではなく上段を持ってきた狙いは、剣に頼らずに打突の間合いを体得させることにある。打ち太刀・仕太刀共に「この間合い」という感覚が必要。
したがって、竹刀で行う形の稽古は間合いが異なるので問題が残る。
練習では、間合いに入った後に相中段に構えさせて、「一足一刀の間」と「打突の間」の正しい間合いを確認させることも必要。
・ 仕太刀は早すぎず、遅すぎないで抜くタイミングを体得する。
柳生新影流では3分打ち込ませた後に抜く稽古をしていると聞くが、打ち太刀が打ち込みを途中で止められないタイミングとこれ以上引くのが遅れると切られてしまうタイミングの間で抜く様にする。
2本目以降も共通しているが抜くタイミング、摺り上げるタイミングを真刀の下で行うことを考えると、「胆力を鍛える」の意味がよく分かる。
○ 2本目の目的は、「正中線の意義の理解」と「1拍子の打ち」にある。
・ 相手が切ってくる剣をかわすには、1本目の間合いを切る方法の他に、正中線をはずす方法、剣で受ける方法がある。2本目では正中線をはずす方法を体得する。小手にくるのを抜く体捌きが、敵の正中線を外して我は生地に立ち、我は正中線を持して敵を死地に置き勝負を制する動作である。
・ 打ち太刀・仕太刀共に小手打ちの動作で1拍子の打撃を体得させる。
振り上げと振り降ろしが途切れない、抜きと振り上げと振り降ろしが途切れない様にする。振り上げた剣が後に倒れない様にすることも大切。倒れない様にするためには左手の小指と薬指の握りを緩めないで手首を折らないこと。
・ 抜くタイミングは1本目と同じで、途中で止められないタイミング。
・ ここで最初の疑問。抜くときは半円を描く心持ちでと有るが、刀法に円を描く操作はあるのであろうか。後ですりあげの時も言及するが、剣の上げ下げは直線が望ましいのではないかと考える。或る先生に教えて貰ったら、「半円を描く心持ち」であって体捌きと相まって結果として半円を描くようになると言われた、
○ 3本目の目的は「正中線の争奪戦を制する」と「刀のそりの理解」にある。
・ 仕太刀・打ち太刀共に生地に立つ様に、なやす時は相手の剣先を体から外す様にする。正中線を維持しようとする剣は強くなければならないし、外そうとする剣も強くなければならない。触れ合っている剣がゆるんでいては意味をなさない。
位づめは争奪戦に勝った成果で、なやす余裕を与えてはならない。
・ 突くときの太刀のそりの効果を理解させる。
太刀を左にねじって突くことによって、太刀のそりがあることから真っ直ぐすり入れる動作1つで、突きと相手の剣の払いの2つの目的を行うことが出来る。
○ 4本目の目的は、「力による正中線争いを巻き返しで制する」にある。
・ 切り結んだ後中段に移行する間は力による正中線争いを行っている。そこで宮本武蔵の「石火のあたり」で突きを入れてくる相手に、押しつける力を巻き返しで外して勝ちを制する技を体得させる。
この理は剣を押さえつけてくる相手に対する応じ技としても稽古でも使える。
・ ここで疑問点2つ。
1 八相の構えは袈裟切りに、脇構えは左胴又は足を切る構えだと思うが、何故上段に構えを変えてから打ち込むのか。
2 打突の間合いに入っていないのに何故打ち太刀は打ち込んでいくのか。相手の太刀の長さが分からないからと説明されたが、少なくとも打ち太刀は自分の太刀の長さを理解しているので、打ち下ろした時には仕太刀の頭を物打ちで切っていなければ師の位とは言えないのではないか。
仕太刀も一歩踏み込んで切り結ぶのに、切り結んだ剣が双方の頭上に無いことが可笑しい。
上段に構えを変える疑問点はそのままにして、切り結ぶ時の剣の理を考えると次の様になるのではないだろうか。
・ 打ち太刀は打突の間合いまで詰め、そこから相手の頭上めがけて打ち込む。
・ 仕太刀は左足から一歩退きながら相手の剣と切り結ぶ。狙いは張り受けか切り落とし。
・ 切り結んで剣が止まるのはよく分からないが、おそらく、打ち太刀は首まで切る振り降ろしをしたのだが、仕太刀の対応を見て太刀を止める様にしたのだろう。
・ 「仕太刀は左足から一歩退きながら相手の剣を受けるのではないか」と話したら先生から、仕太刀が引いたら更に攻め込まれるので、引くことはないと言われた。
○ 5本目の目的は、「太刀の厚みを生かしたすりあげ」と「太刀の下での心胆」にある。
・ 太刀を少し右に回して左の鎬を使ってすりあげることにより、相手の剣を払わずに、太刀のそりと厚みでまっすぐ上に振り上げても、相手の剣筋をはじく事が出来る。
木刀もそりがあるので、すりあげるときは円弧を描かずに真っ直ぐに振り上げてすりあげる稽古が重要。
竹刀ですりあげる時は、そりがないので、竹刀と腕でそりを作ってすりあげる必要がある。
・ 体捌きで間合いを切るのではなく、頭上を襲う相手の剣筋を変えて勝ちを得る「太刀の下での心胆」の修練が大切になる。すりあげるタイミングは、1本目2本目の抜くときのタイミングより遅く、打ち太刀の剣が振り下ろされるに時にすりあげるようにする。ただし、仕太刀が1拍子で物打ちを正しく使った打ちをするためには、体捌きは抜くときと同じタイミングでなければ間に合わないし、間を十分取る引き足が必要となる。これらの節調の中に正しい動作がある。
・ ところで、摺り上げる時にどうしても円弧を描くようになったり、太刀を斜めにしてはじくようにしてまうのだが、胆力不足か。
○ 6本目の目的は、「将の気位」にある。
・ 仕太刀は将の気位に立って、気攻めの連続で打ち太刀を引き回す。
仕太刀の気攻めは次の様に行う。初めは、下段から打ち太刀の小手を打たずに打つ。次に、上段に対して突きか小手を打たずに打つ。最後は、面か小手を打たずに打って、打ち太刀が苦し紛れに小手に来た所をすりあげて小手を打つ。この気迫がなければ6本目の流れは起きない。特に最後の打ち太刀の小技の小手打ちは打たされて打つ小手で無ければ形の一貫性が無い。機を見て打つと有るが違うのではないか。
・ あわせて、「下段からの攻め」と「体を開いてのすりあげ」を理解する。
下段からの小手打ちや面打ちは、動作の起こりが解りにくく、一般に早く見えるので実戦でも活用できる。
・ 左へ体を捌きながら、右の鎬ですりあげる要領を体得させる。
正中線に入ってすりあげるときは太刀の厚みとそりですりあげることは容易だが、体を左へ捌くことによって太刀のそりが活きてこなくなる。このため、腕と刀でそりを作ることが必要となる。
ここで小さな疑問。すりあげ小手が払い小手にならない様にと有るが、体を左に捌きながらの動作としては、払い小手の方が自然ではないだろうか。
・ すりあげと小手打ちを1拍子で行う
剣捌きは振り上げ振り下ろし、体捌きは後退と前進。それぞれ連携して二つの動作を1拍子で行える様に修練修練。
○ 7本目の目的は、「斜めに切る刃筋」と「前に出てかわす体捌き」にある。
・ 居合いで藁を斜めに切るときに振りかぶった剣は斜め上にある。刃筋は真っ直ぐに切ることが必要だからだ。ところが、仕太刀が胴を抜くときに、いったん真っ直ぐ振りかぶった後に右胴を斜めに刃筋を変えながら切ることになる。これで切り落とすことができるのであろうか。正しい刃筋を工夫する必要がある。
・ 抜き胴で前に出てかわす体捌きを体得させる。これも「太刀の下の心胆」が必要である。3分の打ち込みのタイミングで抜くが、この場合は抜き胴になるので相手の胴の右側は打てない。胴の右側を打つためには、打ち太刀が振りかぶったときには既に胴を打っていて、その後に横をすり抜けるようになる。これでは飛び込み胴になってしまうと考えた。
・ 疑問を呈したら或る先生から「7本目はすれ違い胴で胴の右側を切るのではなく、腹の正面を切るのが正しい。右胴とは胴の右側を切ることではない」と言われた。
○ 共通事項
・ 剣道形は全て仕太刀が打ち太刀の仕掛けに応じて勝つ。形で修練するほど「後の先」がそんなに重要なのかなと疑問に思っていたが、「先の先」で勝ちを制するのが日本剣道形であると言われて納得した。納得したのにできないのが剣道形である。
高段者の試合を見ていると、「気」と「先」の争いの緊張感で見ている人達まで引き込まれて空気が一つになっていることがよくある。その様な剣道形をやってみたいものである。